江戸時代などで刑罰として科せられた「蟄居」は、現代では主に時代劇に登場する言葉です。一般的にはあまり使われませんが、人によってはよく知る言葉ではないでしょうか。今回は「蟄居」について、「蟄居」が科せられる意味や他刑罰との違いを紹介していきます。ぜひ、最後までお付き合いください。
「蟄居」の読み方と意味とは?
「蟄居」の読み方とは
「蟄居」とは、「ちっきょ」と読みます。「隠れる」や「籠る」といった意味の「蟄」と「住む場所」を表す「居」から成る言葉です。中世から定められている刑罰で、主に身分のある人に対して課せられていました。
「蟄居」の意味とは
「蟄居」は、自由刑と呼ばれる刑罰です。自由刑には様々な種類の刑罰がありますが、「蟄居」の場合は、「屋敷の決まった一部屋から出られない」というものです。「蟄居」を科された場合には、定められた日数が過ぎるまで、部屋から出ることは許されません。
身だしなみを整えるために水場に行くこともできず、食事は運ばれてくるのを待つだけの生活になります。唯一、部屋の外に出られる機会が許されたのは、トイレに行く場合のみでした。
江戸時代にあった「蟄居閉門」「蟄居屏息」とは竹で囲われたもの?
自由刑には様々な種類がありますが、「蟄居」が決まった際には、訪問者や外出できないように「竹矢来」が設けられます。現在でも公園で見かけることができるため、見かけたことがある方も多いのではないでしょうか。
「竹矢来」が付けられるのは重い刑罰に限られ、敷地外には刑罰を科せられた人が外出できないように見張るため、監視役が付きます。他にも、竹の組み方によっては「角矢来」や「菱矢来」など呼び名が変わります。
「蟄居」と「禁足」の違いとは何?
自由刑の一つに「禁足」というものがあります。「行動の制限」を指す「禁」と「移動」を指す「足」を合わせた言葉のため、「蟄居」と似た意味であることは想像しやすいのではないでしょうか。そんな「蟄居」との大きな違いは、外出できるかどうかの点です。
一部屋のみの生活を強制される「蟄居」に比べ、「禁足」は軽い刑罰となっています。敷地内であれば部屋以外の出歩きも許されており、行動の制限が少ない刑罰となっています。
「蟄居隠居」と「永蟄居」とは何?
「蟄居隠居」
「蟄居」には三種類の刑罰があり、その内の一つが「蟄居隠居」です。現在でも使われている「隠居」と同じく、自分の立場を譲って余生を送ることを指します。しかし、現在の「隠居」と少し違うのは、年齢に制限がなく、若い人でも「隠居」を強いられる場合があるということです。
当時であれば、武士の称号を強制的に他人に譲ることとなり、一部屋で監視されながら過ごすこととなります。「蟄居隠居」が解除されたとしても、武士に戻ることは難しいと言われています。
「永蟄居」
「蟄居」の中でも最も重たい刑罰は、「永蟄居」になります。「一生」を表す「永」がついていることから、終身刑を連想させます。「蟄居」では、自宅の一部屋で過ごすことだけは許されていましたが、「永蟄居」に関しては、鉄格子のついた部屋で生活を強いられます。
この処分は現代の終身刑とは変わりなく、当然ながら、かなり重い罪を犯さない限りは「永蟄居」になることはありません。
真田は高野山蟄居を命じられた?
かなり厳しい刑罰である「蟄居」ですが、有名な歴史上の人物も経験したことのある刑罰です。中でも特に人気の武将である「真田幸村」に注目しました。真田幸村に「蟄居」を命じたのは、江戸幕府を開いた武将である徳川家康でした。
真田幸村が「蟄居」を命じられたのは、関ヶ原の戦いで徳川家康と敵対していたことが要因になっています。戦に勝ったのは徳川家ですが、真田幸村とその父の影響でかなり苦戦しました。最初は死罪を科す予定だったものの、家臣である本多忠勝らの意を汲んで「蟄居」を科すことに落ち着きました。
「蟄居」を使った四字熟語一覧
「蟄居」という言葉は、あまり耳馴染みのないものの、現在でも使われています。しかし、残念なことに「蟄居」の使いどころはあまり多くはありません。
また、意味は「家に引きこもる」や「息をひそめて隠れる」など、刑罰だったころの意味と大きく変わる部分もありません。ただ、現在では刑罰ではないため、軽い気持ちで使われている場合も見られます。
- 蟄居屏息
- 蟄居閉門/閉門蟄居(閉門蟄居)
「蟄居」の言い換え(類義語)一覧
ここまで紹介してきた「蟄居」は、どれも屋内に籠ることを指していました。また、現在では自発的な意味で使われる「蟄居」ですが、似た言葉がよく使われていますので、紹介していきたいと思います。
- 引きこもり:外に出られないこと
- 自粛:自らの意志で活動に制限をかけること
- 籠城:何かしらの理由で、部屋や建物から出ないこと
他にも、刑罰だったころの「蟄居」と似た意味の言葉もありますので、合わせて紹介します。
・謹慎:一定期間、行動に制限をかけて罪を反省させること
「蟄居」の反対語(対義語)一覧
刑罰の一つである「蟄居」の対義語について調べてみましたが、対義語は存在していませんでした。そもそも「蟄居」自体が刑罰のため、反対の意味がないことは容易に想像できます。そのため、はっきりと紹介できる対義語はないが正しいことになります。
強いて言うのであれば、「蟄居」は、どこかに閉じ込めたりして行動に制限をつける自由刑の一つでした。そのため、「自由を奪われている」という意味では、「自由」が対義語に当たる言葉なのかもしれません。
「蟄居」の使い方と例文を紹介!「蟄居する」「蟄居生活」など
主に江戸時代で多く見られた「蟄居」という刑罰は、刑罰なだけに受動的なものでした。しかし、当時の「蟄居」は現在の投獄に当たるため、同じ意味合いで使われることはありません。
では、現在の「蟄居」はどのように使われているのかを紹介します。実は、受動的なものだった「蟄居」は、現在では自発的な場合に使われています。当時とは似て非なるものになっている「蟄居」の使い方について、例文をまとめてみました。
- インドア派のわたしは、最低限の用事以外、家に蟄居している。
- 都会の生活に疲れたため、田舎での蟄居生活に憧れる。
「蟄居」と「幽閉」の違いと意味とは?
「幽閉」とは、「幽霊」の他に「暗い場所」という意味を持つ「幽」と、「閉じ込める」という意味を持つ「閉」から成る言葉です。そのため、意味は「暗い場所に閉じ込める」というものになります。一見すると一見すると、「蟄居」との違いはなさそうですが、大きな違いとして挙げられるのは、「幽閉」は刑罰ではないことです。
誰かを閉じ込めること全般を「幽閉」と言えるため、投獄や収監はもちろんのこと、監禁や軟禁も「幽閉」と言えます。
「蟄居」と「謹慎」の違いと意味とは?
「蟄居」に似た言葉でよく見かけられる言葉として挙げられるのは、断トツで「謹慎」です。テレビなどでも、芸能人の方が不祥事を起こした際に事務所からの対応で「謹慎処分」という言葉をよく見かけます。
「謹慎」は、明治時代までは自由刑の一つでした。そのため、当時の「蟄居」と似た意味を持ち、受動的な場合がほとんどです。「気を引き締める」という意味の「謹」と「行動を見直す」という意味の「慎」から成り立っています。
「蟄居」と「閑居」の違いと意味とは?
「閑居」と聞いて、寂しい印象や孤独な雰囲気を感じた方もいるのではないでしょうか。実際、「閑」という言葉は「閑古鳥が鳴く」などにも使われ、客足がない様子を表します。しかし、元々の意味にはそのようにマイナスなものは含まれていません。
「閑」には、「静か」や「のんびりとした」という意味があり、「居」は「住まい」を意味します。そのため、「引きこもり」を意味する「蟄居」とは違い、田舎暮らしやのんびりとした生活が本来の意味です。
「蟄居」の英語表現と韓国語表現とは?
英語
英語には様々な表現方法がありますが、「蟄居」は「だらしない引きこもり」や「家にいる」として英訳されています。「couch potato」は「ソファーの上に転がるじゃがいも」という意味で、だらだらと家に引きこもる人を指します。
また、不要不急の外出を避ける呼び掛ける際に流行した「stay home」は、「家にいる」ことを指します。英語スラングでは、「home boy/ girl」で、「家にいるのが好きな男性/女性」を指し、自己紹介にも使える一言です。
韓国語
韓国語では、「蟄居」として表せる言葉は一つしかありませんでした。「칩거(チプコ)」という言葉で、意味も日本と同じく「蟄居」になります。韓国語は日本語が基になっているといわれているため、読み方がなんとなく似ているように感じます。
単体の意味としては、「칩」が「チップ」を表し、海外などでサービス料として支払うものや、細かいものを指します。また、「거」は「巨大」という意味で、二つの単語に「蟄居」という意味は含まれていないようでした。
まとめ
言葉 | 蟄居 |
---|---|
読み方 | ちっきょ |
意味 | 「隠れる」や「籠る」といった意味の「蟄」と「住む場所」を表す「居」から成る言葉。中世から定められている刑罰で、主に身分のある人に対して課せられていた。「蟄居」は、自由刑と呼ばれる刑罰。 自由刑には様々な種類の刑罰があるが、「蟄居」の場合は「屋敷の決まった一部屋から出られない」というもの。「蟄居」を科された場合には、定められた日数が過ぎるまで、部屋から出ることを許されない。 身だしなみを整えるために水場に行くこともできず、食事は運ばれてくるのを待つだけの生活になる。唯一、部屋の外に出られる機会が許されたのは、トイレに行く場合のみだった。 |
英語表現 | couch potato |
home boy/ girl | |
韓国語表現 | 칩거(チプコ) |
類義語 | 引きこもり(ひきこもり) |
自粛(じしゅく) | |
籠城(ろうじょう) | |
対義語 | – |
時代によって意味が変わった言葉である「蟄居」は、言葉の形を変えて身近なものであることが分かりました。また、当時の刑罰についての対応や重さによっての対応など、現在にないものばかりだからこそ、新鮮だったと思います。この記事をきっかけに、歴史に少しでも興味を持っていただけると幸いです。