『労う』とは苦労や努力をした相手に対して、感謝の言葉を伝えたり、行動を示すことを言います。一般的に、成果を出した部下に対して上司が「ご苦労様」などの言葉を掛けることを『労を労う』と表現します。
しかし、正しい使い方を知っていなければ、相手に不快感を与えることもあるかもしれません。『労う』という言葉を上司に使っても良いのか?どのような時に使うのが正しいのか?
そこで今回は、正しい知識をもって相手に、失礼なく感謝の気持ちを伝えられるように、『労う』の意味や、気を付けるべきポイント、ちょっとしたアレンジ、英語での表現方法なども交えて紹介していきます。
「労う」の正しい読み方と意味は?
労うの読み方は「ねぎらう」
『労』は音読みで「ろう」と読みます。しかし、『労う』になると、読み方は変わり、「ねぎらう」になります。送り仮名一つで読み方が変わる面白い漢字です。冒頭で紹介した「労を労う」は「ろうをねぎらう」となります。
同じ漢字が続いて読みが違うということは、日本語ではたまにあります。例えば“膳の飯につけて出す汁物”を「御御御付」と書いて「おみおつけ」なんて読んだりします。普通には読めませんよね。ここに漢字の面白さがあります。
少し脱線しましたが、『労』と『労う』は読み方が変わってくるので注意しましょう。さらに別の読み方もありますが、後述したいと思います。
労うの意味は「努力に対して感謝の言葉を表現すること」
労うとは、「骨折りや苦労に対し感謝の言葉を掛けたり、行動する」という意味があります。骨折りというくらいですから、結構な量の労力を消費した、あるいは努力の末に結果を出した人に対し、感謝するということになります。
例えば会議で使う資料をまとめ、20部の冊子にして提出してきた相手に対しては労うという言葉は妥当と言えますが、既に用意されている資料を印刷してきただけでは、労うというには言葉を使うには少し労力が足りていないかもしれません。
「労う」を英語にすると「reward someone for his/her services」
労うを英語で表すと「reward someone for his/her services」となります。
英単語をそれぞれ和訳していくと下記の通りになります。
英語
- 「reward」:褒賞、報酬、褒美
- 「someone」:誰か
- 「for」:~~にとって
- 「his/her」:彼/彼女
- 「services]:奉仕、勤務、接客
となります。
これを繋げると、「誰かが彼/彼女の奉仕に褒賞を与えた」となるでしょうか。しかし、「誰かが」というと、まるで他人事のようで、しっくりきませんね。
そこで「someone」に込められた、もうひとつの意味をである、「ある人」を当てはめてみます。すると「ある人が彼/彼女の奉仕に褒賞を与えた」となり、大分印象が変わってきますね。
「労う(ねぎらう)」と間違いやすい「労る」(いたわる)とはほぼ同じ意味(同義)
前述した、もう一つの『労』の読み方を紹介します。
『労わる』と記述されていた場合、読み方は「いたわる」になります。
『労わる』には多数の使われ方があります。
- 立場が弱い人などに同情の気持ちをもって親切に接する。気を配って大切に世話をする 「お年寄りを労わる」
- 労を労う、慰労する 「部下を労わる」
- 手当てを加える。養生する。 「身体を労わる」 などの意味があります。
①と③はかなり意味合いが変わってきますが、②はほぼ同じ使われ方です。
特に気にせずに使ってしまっても問題はないと思われます。
「労う」も「労わる」も両方、目下の人に対して感謝の意を表して行われる行為を表しますが、明確な違いとしては「労わる」の方がより自分より弱い立場にある人を慰めたり助けたりするニュアンスが含まれるところです。
「お爺ちゃんを労わってあげて」という表現と「お爺ちゃんを労ってあげて」という表現では、前者の方がお爺ちゃんが庇護してあげなければならないような、か弱いイメージになると思います。
また、「努力」や「行動」に感謝の意を表したい時に「努力を労う」や「その行動を労って」という使い方をしますが、「努力を労わる」や「その行動を労わる」という使い方はしません。送り仮名が異なるだけですが、微妙なニュアンスの違いを表現することが出来ます。その時の状況に合わせて適切な使い方をすると良いでしょう。
「労う」は目上の人にも使うのはやめたほうがいい
「労う」とは本来は上の立場の人から下の立場の人へ使う言葉
『労う』事は、苦労や努力をして結果を残した人に報いることですから、どんどん行いたいところですが、気を付けるべきポイントを知っておかないと、思わぬ落とし穴があるので気を付けましょう。
『労う』という言葉を直接相手に伝えることはあまりないとは思いますが、その意を伝える言葉として「ご苦労様」があります。
『労いの言葉』は基本的には上位の者から下位の者へと伝えられる言葉になります。上司が部下に対して言うのであれば、全く問題はありませんが、部下が上司に使ってしまわないようにしましょう。
気にしない人もいるとは思いますが、もし礼儀作法を重んじる人であれば、不快に思われるかもしれません。
任侠映画や漫画などでは刑務所から出所した親分、兄貴分に対して「お勤めご苦労様でしたぁ!」などと言っていますが、風習があるから許されるのであって、一般市民の私たちが、上司に向かって「ご苦労様」は控えておくのが、ベターではないでしょうか。
正しい敬語として「労う」を使う場合は目上の人には使わない
前述のとおり、「ご苦労様です」は目上の人が目下の人に対して使う言葉なので、敬語のように思えて実は無礼を働いています。出来れば使うのであればやめておいたほうがいいでしょう。
では、「ご苦労様」に代わる敬語は何になるでしょうか?「お疲れ様です」という言葉、使ったことありませんか?
「お疲れ様です」は敬語の中の丁寧語に区分されるので、目上の人に使っても何の問題もありません。
さらに感謝を表したいのであれば。また「お疲れ様です。大変助かりました」や「お疲れ様です。勉強させていただきました」など状況に応じて一言付け加えると、感謝の気持ちがグッとあがるのではないでしょうか。
自分を「労う」という使い方であれば正しい
目上の人に対して労うのは失礼であり、相手に不快感を与える可能性があるため、基本的に使ってはいけません。しかし『労う』は自分と同格か、それ以下に使う言葉なので、自分に対して使うのであれば問題ありません。
努力の結果、大会で優勝した。苦労して作った製品が売れた。そんな時には、ケーキを買う、高級レストランに行く、ずっと欲しかった物を買う、など、頑張った自分へ、ご褒美をプレゼントして自分を労ってあげましょう。
目上の立場の人に使える「労う」の言い換え(類義語)
「労わる気持ち」を伝えたい場合「感謝」が無難
目上の人を『労う』のは失礼になるので、感謝の意を伝えるには「お疲れ様です」を使えばいい、というのは前述したとおりですが、他にも感謝の意を伝える方法があります。それは、「感謝しています」と伝えることです。
そのままじゃないか、と思われるかもしれませんが、その分ストレートに相手に伝わると思います。また「ありがとうございます」も感謝を伝えるストレートな表現です。
例えば「手伝って下さり、感謝しています。」「大変勉強になりました。ありがとうございました。」などと言えば、変に遠回しな言い方をするよりも、よほど気持ちが篭ったお礼が言えると思います。
その他に、上司に対して労わる気持ちを伝える表現として「ご自愛ください」という言い回しもできます。例えば「日々お忙しいかと思いますが、ご自愛くださいね」などと声をかけた場合「自分を大切にして健康に過ごしてくださいね」という意味になりますので、失礼にも当らず労わる気持ちを表現することが出来ます。
「労う」を使った例文を紹介!
さて、ここまで「労う」の意味や、気を付けるべきポイントを紹介しました。
そこで実際にありそうな場面に当てはめた例文を紹介したいと思います。これで好感度上昇が狙えるかも?
労いの言葉を掛ける
いつも急な仕事を文句を言いつつ引き受け、期日に間に合わせてくれる部下。そんな部下に対し、「いつも助かってるよ、ありがとな」などと『労いの言葉を掛ける』と、その部下は報われた気持ちになるでしょう。
労を労う
言葉だけではあまり伝わらないかも、と思う方は、「ご苦労さん」と言いつつコーヒーを差し出してみてはいかがでしょうか。また、飲み会などで『労を労う』と称し、二次会に誘う(感謝の気持ちで奢ってあげましょう)という方法もあるのではないでしょうか。
自分を労う
夜遅くまで会社に残って作業をし、無事に取引先との交渉を成功させた『自分を労って』一泊二日の温泉旅行に申し込んでみてはいかがでしょうか。
頑張りを労う
この企画を面白い物にするために社員の皆が一致団結して作業をしたおかげで、大人気企画になった。そんな時は社員皆の『頑張りを労って』週末に飲み会を開いてみてはいかがでしょうか。社員の団結力が高まるかもしれません。
「労う」の意味と使い方のまとめ
今回は「労う」の意味や使い方、例文などをご紹介しました。「ねぎらう」と「いたわる」は、読み方は違いますが、ほぼ同じ意味を持つこともご理解いただけたかと思います。その時々の状況に応じて微妙に違いを出すことが可能ですので「労う」と「労わる」を適宜使い分けると良いでしょう。
労うという言葉は感謝を表す言葉です。しかし、使う相手は選びましょう。目上の人に対してそのまま使ってしまうと失礼なことにもなりかねません。また、同僚からは常識のない人と思われるかもしれません。そんなことにならないように、しっかりとした知識を持ち、相手の立場に応じた使い分けをして、上司からも部下からも信頼される関係を築いてみては如何でしょうか。